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小泉武夫先生の講演要旨

先月5月6日に麻布十番の中国飯店 富麗華にて開催した「紹興酒を楽しむ会」にて、 東京農業大学名誉教授並びに発酵学の第一人者でもある小泉武夫先生の講演で紹興酒について貴重なコメントを頂戴しました。 ・本来の紹興酒のあるべき姿 ・本当にいい酒とは何か ・紹興酒を日本において普及させていくべき確固たる理由 ・文化遺産に登録されるべき紹興酒の持つ資質 など、紹興酒について詳しい人もそうでない人も本物の紹興酒の魅力や奥深さを改めて発見できるような内容です。 長年発酵学に携わり、中国酒についても熟知されている小泉先生の目線から語られた、「文化としての紹興酒」をぜひご覧ください。

 

小泉武夫先生の講演要旨

5月6日紹興酒を楽しむ会@中国飯店富麗華

*飲み方

紹興酒に氷砂糖を入れて飲む習慣が全く間違っていた。大正8年、神戸の内田さんという貿易商が氷砂糖を入れて飲んでいた。紹興酒はお燗してまたおいしい、ただ酸味が強くなる。あの時代は氷砂糖がステータスだった。その後どんどん広がった。老酒を頼むと必ず氷砂糖が出てくるようになった。

中国料理は油が絶対欠かせない。油断大敵!中国の酒、白酒にしても黄酒にしても油に負けないような酒。中国のお酒の酸味はフマル酸というクモノスカビが作った酸。このフマル酸が油の料理に合う。食事と酒が一体化する。

紹興酒が日本に入ってきたスタートの時から、日本人がわざわざ甘い砂糖を入れるというおかしいことをやった。私があちこちの大学で紹興酒の正しい飲み方を教えてきた。

中国の料理を生かすためには、おいしい酒をストレートで飲む。これだけ文化が浸透して発展しているから私たちが直すべきだ。

*いい酒とは

30年前に北京の宮廷料理「同和居」で「三不粘」というデザートを食べた。箸に粘らない、皿に粘らない、歯に粘らない。これはすごいが、その時出てきた紹興酒もまたすごい。銘酒というのは、本当にいい酒とは何かと言ったら、口に何も障らない。私の先生である坂口謹一郎先生は「良いお酒は水の如し」とおっしゃっていた。私は「油の如し」とも言っている。

今日のお酒はワインに近い、紹興酒をこれから日本で伸ばしていかなければあかん。なぜかというと、油料理が非常に多くなった。この40年間油の消費量が日本で大体2倍になった。そこで何が一番合うかというと、みんなワインだという、なぜかというと酸味があるから。しかしワインは果物の酒、紹興酒は米の酒。米の酒は日本人に一番合う。

そういう意味で、これからこういう米の酒、しかもワインに近い酒、これが日本を席巻するのではないかと私は思っている。そういうことで、私は夏さんに応援するから頑張れよと。

*鑑賞しながら飲む

 よくものを見るときに鑑賞という。絵画を鑑賞するとか。こういういい酒を鑑賞しながら飲む、そういう表現になってきていい感じがする。がぶがぶ飲むのではなく、やはり鑑賞しながら味わう酒。こういうために、飲む人は心得て、飲む店も変なものを出す店には出さない。日本で一番予約が取れないすごい店がある。私の弟子中の弟子がやっている滋賀県の徳山鮓。ぐるなびで4.7と日本で一番高い。隈研吾先生がこの間行ってきた。私も前の週に行った。こういった店は本当にお酒と料理を一体化して、お客さんも選んで酒を出している。このような店にもっと紹興酒を置いてもらう。紹興酒は味わう酒である。米食文化という世界にある。

*無形文化遺産

日本の麹の酒が世界無形文化遺産に登録されることにになった。日本で食分野の2つ目の世界遺産。いまから7年前に和食が世界遺産になったときは、私はユネスコの登録委員として、いまの外務大臣の林芳正さんが農林水産大臣の時一緒に推進して成功した。2つ目の麹の酒を世界遺産にしようと私が国の座長をやってきた。私はそれをやりながら中国の酒はなんでならないといつも思っている。白酒でも黄酒でも十分に可能性がある。文化の深さから言うと、はるかに日本より中国のほうが深い。

紹興酒は酒薬というものを使う。漢方薬が入っている。ほかにない。麹の中に2000年前から漢方薬を入れている。本当に体にいいだけでなく、お酒に合う。医食同源の原点がここにある。こういうことを考えながら紹興酒を飲むとまた素晴らしい。中国の酒は世界遺産になる十分な資質を持っている。

日本の麹の酒を世界遺産に推薦した。沖縄には黒麹菌。こっちの本州、九州、北海道、四国には黄色い麹菌、これは日本にしかいない。中国の紹興酒はクモノスカビ。中国の酒造り、特に紹興酒の造り方は複雑、そして飲ませ方、一つの歴史、文化、当然中国の紹興酒は世界遺産になってもいい。これから中国が世界遺産を申請するときは応援したい。

私自身が発酵学をやってきて中国に13度行って、中国の本も何冊も書いているけど、夏さんと出会って、本当に紹興酒をいまここで改めて中国文化の一つとして、中華料理の中心的なものの一つとして、われわれみんなで世界の人たち、日本の人たちが見直していくこと、これはやっぱり国を問わずに広い文化の吸収だと思う。

 

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