連載記事<7回目>
中華料理と紹興酒
中国語で「秋風起、蟹脚痒」という言い方がありますが、秋のそよ風が吹くと上海ガニを食べたくてソワソワしてきます。まさに食欲の秋です。
▽上海ガニ
中華料理といえば紹興酒は定番で、そして周知のように、とくに旬の上海ガニと紹興酒の相性は抜群です。
約1800年前の晋の時代に畢卓(ひったく)という酒豪が「右手に酒杯、左手に蟹螯(かいごう)、人生はこれで十分だ」と言ったと伝えられています。それ以来「持螯把酒」という言葉が生まれて、カニと酒は李白や陸游など中国歴代の文人にこよなく愛されて、秋の味覚の風物詩となりました。
なぜ上海ガニに紹興酒が合うのか、それには科学的な裏付けもあります。紹興酒に含まれるアルコールは生臭さを取り除き、殺菌の効果があります。紹興酒の持つ甘みは上海ガニの鮮度を高めてくれます。また漢方の考え方から、カニは身体を冷やす作用がある一方、紹興酒は身体を温める作用があり、上海ガニと一緒に口にすることで冷えを和らげてくれます。また、カニには消化のいいタンパク質が多く含まれ、胃に滞留する時間が長いため、酒の胃腸に対する刺激を緩和し、酔いにくくなると言われています。
▽食中酒
上海ガニだけでなく、紹興酒は食中酒として脂っこい中華料理と全般的に相性がいいです。料理の味を引き立てて食欲を増進する効果もあると言われています。
辛いものから甘いものまで様々の料理に合わせて、熟成年数の違う紹興酒から最適のものが選べます。3~5年の若い紹興酒は麻婆豆腐などの濃厚な料理と合います。アルコールの刺激と酸によって口をサッパリしてくれます。5~10年の中熟成紹興酒は酸が減って口当たりがよくなっているので、肉料理など多くの中華料理と合います。10年以上の長期熟成紹興酒はフカヒレなど味の淡い海鮮料理と一緒に飲むと、口当たり、香り、食感などを引き立ててくれます。そして飲み方もロックからお燗まで、様々あります。
▽おつまみ
近年古越龍山が中国各地でアンテナショップを開設し、先月は地元の人気観光地「魯迅故里」に旗艦店を出しました。それに合わせて紹興酒に合う十大“おつまみ”も発表され、次の通りになります。花生米(揚げピーナッツ)、茴香豆(そら豆のウイキョウ煮)、猪耳朵(豚耳の煮込み)、醉鱼干(紹興酒漬けの干物)、酱牛肉(牛肉の中華煮込み)、糟鸡肉(地鶏の酒粕漬け)、豆腐干(中華風岩豆腐、五香押し豆腐)、酱鸭肉(鴨肉の醤油煮込み)、炸酥鱼(川魚のサクサク揚げ)、醉枣子(ナツメの紹興酒漬け)。紹興に行かれる機会がありましたらぜひこういった地元のおつまみと一緒に紹興酒を楽しんでください。
▽料理酒
紹興酒は料理酒としてもよく使われます。世界に冠たる中華料理を支える存在と言っても過言ではありません。アルコール分が素材に浸み込み、素材をやわらかくする、そして揮発するときに素材の生臭さなどの雑味を取り除く効果はほかの料理酒にもありますが、紹興酒は長期熟成による芳醇な香りと味の深みが特徴です。また他の料理酒と比べて有機酸やアミノ酸が豊富に含まれており、料理にコクと香ばしさを与えて、ツヤを出してくれるのは紹興酒ならではの良さです。
日本の食卓に馴染みのある「豚の角煮」のルーツとされている中華料理の「東坡肉」(トンポーロウ)は約1000年前紹興の隣町杭州で生まれた名物です。宋代の文人蘇東坡に仕えていた調理人が聞き間違えて、水の代わりに紹興酒を使って煮込んだら予想外の美味しいものができたと言い伝えられています。
料理酒として欠かせないので、古越龍山の紹興酒はいま世界40カ国以上に輸出され、各地の中華街で使われています。また、紹興が位置する浙江省や周辺の上海市・江蘇省などではほとんどの家に紹興酒を置いてます。
味の好みが近い日本でもこれから「一家一本紹興酒のすすめ」としてその魅力を伝えていきたいと思います。ぜひ皆さんもご自宅で青椒肉絲や酢豚、チャーハンなどを作る際紹興酒を料理酒として使ったり、中華料理に合わせて飲んだりしてみてください。