連載記事<5回目>
今回は紹興酒の原料と製法についてご紹介です。
紹興酒は日本酒と同じように米から出来ており、精米・浸漬・蒸煮・冷却・仕込み・発酵・上槽・火入れといった基本的な製造工程も、糖化と発酵の2つの働きを同時に進行する「並行複発酵」という発酵の仕組みも日本酒と大変似ています。
大きな違いは日本酒の原料は酒米という粳米であるのに対し紹興酒はもち米、麹は米に対して麦、そして紹興酒は酒薬という糖化発酵剤も使って、また醸造完了後、原酒を長年熟成させたり、出荷するときは数種類をブレンドしたりするところです。
▽原料
紹興酒の主な原料はもち米、麦麹、鑑湖の水になります。それぞれ紹興酒の「肉」、「骨」、「血」と喩えられています。また品質を大きく左右する「酒薬」と長い歴史の中で進化してきた「伝統製法」は紹興酒の「魂」と「経絡」と言われています。
紹興市が位置する中国の江南地方は稲作の発祥地であり、昔から米作りが盛んに行われてきました。かつては地元でとれたもち米が使っており、約1000年前の南宋時代は地元の田んぼが6割以上もち米を作っていたと史書に記されています。現在は紹興酒の製造量が増えたため、ほとんど湖北省や安徽省などの穀倉地帯から原料米を調達しています。
宋の時代に中国北部の麦作文化が江南地域に伝わり、麦麹が使われ始め、現在に至る酒造技術が確立。醸造技術の集大成となる 『北山酒経』もその時完成しました。近年科学的な研究が進み、古越龍山の麦麹から2800種類以上の微生物が検出されています。多種多様な微生物の働きが紹興酒特有の風味を形成しているといえます。
酒薬は早生栽培インディカ米とヤナギ蓼などを原料に作られ、自然由来のクモノスカビ、ケカビなどの麹菌と酵母菌が、糖化発酵剤としての役割を担っています。今年、古越龍山傘下の一番古い「沈永和工場」で造られた酒薬は358代目となりました。
「名水の地に銘酒あり」。酒の醸造には良質な水が欠かせないのです。鑑湖の水をなくして優れた紹興酒が造れない、と昔から言われてきました。鑑湖の水は清澄で、硬度がほどよく、また豊富なミネラルが含まれて、特にモリブデンとストロンチウムの成分が多く、醸造にいい影響を与えていると言われています。古越龍山は鑑湖の源流から採取した水を、厳密な水質管理の元、使っています。
▽製法
毎年8月の蒸し暑い時に酒薬を作り、9月に小麦で麦麹を作ります。10月になると「淋飯酒」(りんふぁんちゅう)という酒母を作り、もち米の収穫が終わると11月の立冬から酒造り本番の時期です。
まず精米・選別されたもち米を鑑湖の水に浸漬。乳酸発酵が始まって15~20日後に水を切って蒸しの工程へ。多くの人力により甑(こしき)で蒸し上げる昔ながらのやり方もありますが、生産量が増えたので連続式蒸米装置が多くの工場に導入されています。蒸した後は、目標とする温度まで冷却させます。それから麦麹と酒母、浸漬の際にできた「漿水(しょうすい)」と一緒に500リットルほどの大甕に仕込みますが、1日ほど発酵が進むと櫂(かい)を入れて撹拌させます。これは開耙(かいぱ)と呼ばれ、酒造りを取り仕切る「杜氏」にあたる「酒頭脳」というプロのもとで行われる最も重要な作業です。
約5日間の一次発酵を終えたら24リットルの小ぶりの甕に移し替え、蓮の葉と陶器製の蓋をして屋外で二次発酵を行います。翌年の立春から上槽、火入れ、そして甕に詰めて泥で密封し酒庫に貯蔵。数年間から数十年間にわたって熟成させます。
手作りの伝統製法は大変な重労働ですが、現在は浸米から貯蔵まで近代的な機械生産方式も増えています。
紹興酒の醸造は、中国の「天の時、地の利、人の和」という伝統的な「天地人合一」の精神を貫いてきました。古くから地の利を生かし、自然の摂理を大事にしながら、脈々と職人の手を通じて、受け継がれてきました。まさに自然の賜物で、叡智の結晶と言えます。